病気と治療について

先進のレーザー治療最先端の癌治療

半導体レーザーを使用した癌治療

現在、動物に対しての癌、腫瘍の治療は、外科手術、抗癌剤治療、放射線療法が主流です。

外科手術で、全部取る、根こそぎ取る。
取り切ることができれば何よりです。

抗癌剤がよく効く腫瘍もあります。
血液の腫瘍など、取ることができない物も抗癌剤で治療することになります。

放射線照射がよく効く腫瘍もあります。
可能な限り、これらの治療を選択するべきです。

ですが、高齢で麻酔に耐えられない、心臓が悪くて麻酔がかけられない、
などの場合は、手術や放射線療法はできません。

抗癌剤も副作用がひどくかえってQ O Lが悪くなることもあります。
このような場合、他に打つ手は無いのでしょうか?

ここでは、主に半導体レーザーを使用した癌治療の紹介をさせていただきます。

いずれも無麻酔で実施できる治療です。

半導体レーザーを使用した癌治療

癌細胞、腫瘍細胞は正常組織よりも熱に弱い。
半導体レーザーは組織深達性がある。

この2点を応用した、温熱療法が主体になります。

半導体レーザーDVL-20はレーザーメスでもありますが、ロータリーハンドピースという装置を使うことで腫瘍の温熱療法を行うことができます。

ロータリーハンドピースは、半導体レーザーのファイバーを高速で回転運動させる装置で、皮膚温度をあまり上げずにレーザー照射することができ、深部組織の温度を上げることができます。
レーザーハイパーサーミア、マイルドレーザーハイパーサーミア、などと言います。
深部の腫瘍組織の温度を上げることで、腫瘍の増殖を抑制することが期待されます。
無麻酔で行うことが可能です。

体表面の腫瘍に関しては、広拡散プローブを使ってレーザーサーミアを行うことが可能です。
腫瘍組織の塊を切除するのではなく、レーザープローブでチクチク刺すイメージで照射を行います。中心部から3mm程の組織は凝固し、その周辺9mm程の組織は温度を上げることにより傷害することができます。
局所麻酔が必要なこともありますが、無麻酔でできることもあります。
直径で数ミリ程度の皮膚の良性腫瘍であれば、炭酸ガスレーザーで蒸散してしまうこともできます。
これもほぼ無麻酔で実施可能です。

半導体レーザーの癌温熱療法を効率的に行うために

ICG修飾リポソームによる光免疫誘導治療

という治験研究がおこなわれていました。
現在治験が終了して、この治療は行なっていませんが、半導体レーザーによる癌の温熱療法を知る上で役に立つ情報ですので概要の説明を残しておきます。

ICG修飾リポソームによる光免疫誘導治療について

現在治験が終了しているため、こちらの治療は行っておりません。

ICG

インドシアニングリーンと言う緑色の色素です。
変わった特性のある色素で、ある波長帯の光に対して、励起、吸収、蛍光を発することから医学的にいろいろな用途に利用されています。
最大吸収波長の800nmでは発熱し、一重項酸素を放出します。従って、ICGを腫瘍組織に注入して800nm付近のレーザー(DVL-20は805nm)をあてると熱と一重項酸素によって腫瘍細胞を障害することができます。ICGを静脈内に投与しても腫瘍組織や炎症のある組織に集積するのですがほぼ1日で排出されてしまいます。どのように腫瘍組織に入れるか定着させるかが課題でした。

リポソーム

生体膜を構成するのと同じリン脂質の二重膜構造をした微小な球体です。

ICG修飾リポソーム(ICG-Lipo)

100〜200nmの直径のリポソームの膜に分子的にICGを着けたものです。
ガン治療用にはリポソームの球体の中に4種類の抗ガン剤を全身投与量の10分の1量を封入しています。
静脈内に投与すると速やかに腫瘍組織に集積し約3週間留まります。
体外から800nm付近のレーザーを照射するとICGが発熱し一重項酸素を放出するとともにリポソームの膜構造が壊れ腫瘍組織に選択的に抗ガン剤を作用させることができます。

何だかガンを退治できそうな気がしてきませんか?

光免疫誘導治療

現在使われているプロトコルは、
深在性腫瘍には、ICG修飾リポソームを静脈内に注入後10〜20分レーザー照射、以後1日おきにレーザー照射、免疫賦活剤として丸山ワクチンを併用。これを3週間続け1クールになります。
3週間でICG修飾リポソームを入れるのは初回だけ、レーザー照射は週3回になります。半導体レーザーDVL-20のロータリーハンドピースを使うことで深部の腫瘍にも適用できます。
表在性腫瘍の場合は、3分の1量のICG修飾リポソームを注入しレーザー照射を週3回。
これを3回繰り返して1クールになります。
3週間でICG修飾リポソームの注入は3回。レーザー照射は週3回ずつ。こちらも丸山ワクチンを併用します。

ICGとレーザー、全身投与量の10分の1量の微量な抗ガン剤(副作用は出ない量です)によって腫瘍を障害しつつ免疫を賦活することによって当該腫瘍に対する腫瘍免疫を獲得させようという狙いです。

どんどん腫瘍を小さくするのではなくじわじわと攻撃する。
少なくとも腫瘍がどんどん大きくなるのは防げます。
それによって担ガン動物のQOLが良くなると考えられます。

ガンを根治するのではないけれど生体に悪さをしない程度におとなしくしていてもらうと言うとわかりやすいでしょうか?

パル動物病院での症例 – 耳に肥満細胞腫ができたフレンチブルドックのB君

手術したら耳が無くなっちゃうよ。ということでICG-Lipoによる光免疫誘導治療を選択しました。
小さい腫瘤だったのですぐに脱落。再発もありません。

パル動物病院での症例 – 前足の肉球の横に直径4mm程の肥満細胞腫ができた猫のA君

治療中は腫瘤の部分だけ障害されているようで、黒く壊死状になっています。周辺の正常組織も同じ量のレーザーが照射されているはずですが全く影響がありません。

治療中は腫瘤の部分だけ障害されているようで、黒く壊死状になっています。周辺の正常組織も同じ量のレーザーが照射されているはずですが全く影響がありません。

治療が終わると、すっかりきれいになってしまいました。

冒頭にも申し上げたようにこの治療は現在治験段階ですのでこれで治るとまでは言えません。ただ、ご紹介した本院の症例のように手術をしたら機能障害を起こしてしまいそうな症例や、諸々の理由で手術ができない症例に対しては大変に有望な治療方法だと思います。この治験が成功することを願ってやみません。