病気と治療について
ICG修飾リポソームによる光免疫誘導治療について
これは現在治験段階の治療法です。全国で200施設程の動物病院が参加しており、パル動物病院も比較的に早くから参加させて頂いています。治験段階ですので、これで治りますとは言えませんが、麻酔や手術を必要としない治療法で大きな可能性を秘めていると思いますので、ご紹介させて頂きます。
なじみの無い言葉が多いので、まず語句の説明をしましょう。
ICG
インドシアニングリーンと言う緑色の色素です。
変わった特性のある色素で、ある波長帯の光に対して、励起、吸収、蛍光を発することから医学的にいろいろな用途に利用されています。
最大吸収波長の800nmでは発熱し、一重項酸素を放出します。従って、ICGを腫瘍組織に注入して800nm付近のレーザー(DVL-20は805nm)をあてると熱と一重項酸素によって腫瘍細胞を障害することができます。ICGを静脈内に投与しても腫瘍組織や炎症のある組織に集積するのですがほぼ1日で排出されてしまいます。どのように腫瘍組織に入れるか定着させるかが課題でした。
リポソーム
生体膜を構成するのと同じリン脂質の二重膜構造をした微小な球体です。
ICG修飾リポソーム(ICG-Lipo)
100〜200nmの直径のリポソームの膜に分子的にICGを着けたものです。
ガン治療用にはリポソームの球体の中に4種類の抗ガン剤を全身投与量の10分の1量を封入しています。
静脈内に投与すると速やかに腫瘍組織に集積し約3週間留まります。
体外から800nm付近のレーザーを照射するとICGが発熱し一重項酸素を放出するとともにリポソームの膜構造が壊れ腫瘍組織に選択的に抗ガン剤を作用させることができます。
何だかガンを退治できそうな気がしてきませんか?
光免疫誘導治療
現在使われているプロトコルは、
深在性腫瘍には、ICG修飾リポソームを静脈内に注入後10〜20分レーザー照射、以後1日おきにレーザー照射、免疫賦活剤として丸山ワクチンを併用。これを3週間続け1クールになります。
3週間でICG修飾リポソームを入れるのは初回だけ、レーザー照射は週3回になります。半導体レーザーDVL-20のロータリーハンドピースを使うことで深部の腫瘍にも適用できます。
表在性腫瘍の場合は、3分の1量のICG修飾リポソームを注入しレーザー照射を週3回。
これを3回繰り返して1クールになります。
3週間でICG修飾リポソームの注入は3回。レーザー照射は週3回ずつ。こちらも丸山ワクチンを併用します。
ICGとレーザー、全身投与量の10分の1量の微量な抗ガン剤(副作用は出ない量です)によって腫瘍を障害しつつ免疫を賦活することによって当該腫瘍に対する腫瘍免疫を獲得させようという狙いです。
どんどん腫瘍を小さくするのではなくじわじわと攻撃する。
少なくとも腫瘍がどんどん大きくなるのは防げます。
それによって担ガン動物のQOLが良くなると考えられます。
ガンを根治するのではないけれど生体に悪さをしない程度におとなしくしていてもらうと言うとわかりやすいでしょうか?
パル動物病院での症例 – 耳に肥満細胞腫ができたフレンチブルドックのB君
手術したら耳が無くなっちゃうよ。ということでICG-Lipoによる光免疫誘導治療を選択しました。
小さい腫瘤だったのですぐに脱落。再発もありません。
パル動物病院での症例 – 前足の肉球の横に直径4mm程の肥満細胞腫ができた猫のA君
手術したら機能障害がおきそうな場所なのでICG-Lipoによる光免疫誘導治療を選択しました。
治療中は腫瘤の部分だけ障害されているようで、黒く壊死状になっています。周辺の正常組織も同じ量のレーザーが照射されているはずですが全く影響がありません。
治療が終わると、すっかりきれいになってしまいました。
冒頭にも申し上げたようにこの治療は現在治験段階ですのでこれで治るとまでは言えません。ただ、ご紹介した本院の症例のように手術をしたら機能障害を起こしてしまいそうな症例や、諸々の理由で手術ができない症例に対しては大変に有望な治療方法だと思います。この治験が成功することを願ってやみません。