病気と治療について
避妊去勢について
避妊・去勢手術2015.09.22
「避妊手術・去勢手術は必要ですか?」
「いつすれば良いですか?」
飼主様から良く受ける質問です。
私は獣医ですので、病気の側面から解説したいと思います。
「避妊や去勢と病気と関係があるんですか?」
それがあるのです。
避妊手術や去勢手術をしたから罹りやすくなる病気というのはそれほどありません。
ところが、避妊手術や去勢手術をしなかったら罹りやすくなる病気はあるのです。
これらは避妊・去勢手術をしておけば防げる病気でもあります。
ですから何としても皆様にお伝えしたいのです。
犬の避妊・去勢と病気
●雌犬の病気
乳腺腫瘍
これは非常に多い腫瘍で、雌犬の全腫瘍病変の半数以上になると言われています。
人間ではこんなに発症率が多い腫瘍や癌はありませんよね。驚異的な数字だと思いませんか?
この乳腺腫瘍は、発症に女性ホルモンの影響を受けていますので避妊手術で防げるのです。
ある研究データによると、初回の発情前に避妊手術(卵巣子宮摘出)を行った雌犬の乳腺腫瘍発症率は0.05%。2回目の発情までに手術した場合の発症率は8%。2回目の発情以降に手術した場合は26%。
避妊手術のタイミングがいかに大事かわかりますね。
雌犬で非常に発症率の高い乳腺腫瘍を防ぐためには、最初の発情前に避妊手術をすることが有効です。
このタイミングを逃しても、2回目の発情が来る前には手術をしましょう。
子宮蓄膿症
これは発情後2ヶ月くらいで起こる病気で、子宮内に大量の膿がたまります。
7〜8才以降で発症が多くなります。
続発症として腎炎を併発したり、破裂して腹膜炎を併発したりすることもある厄介な病気です。
手術で卵巣と子宮を摘出することになります。
結局、避妊手術と同じ手術をすることになるのですが、病気で数日食欲が落ちていることや高齢で発症することを考えると、若くて健康なときに手術する避妊手術と比べてリスクが大変高くなります。
●雄犬の病気
前立腺肥大
未去勢の雄犬では8才齢以降くらいになると前立腺が男性ホルモンの影響をうけて肥大してきます。
その結果、血尿や排尿障害が起きることがあります。
前立腺炎を起こすこともあります。
発症率は高くないですが、前立腺癌になることもあります。
肛門周囲腺腫
肛門のまわりに肛門周囲腺という小さな分泌腺がいくつもあります。
前立腺と同じで、男性ホルモンの影響を受けて肥大してきます。
若い犬のお尻の穴はキュッとすぼまっていますが、未去勢の老犬のお尻の穴はドーナッツのように見えます。
これが肛門周囲腺の肥大した状態です。
これはひとつの前癌状態で、このなかにしこりができてくると肛門周囲腺腫、さらに悪性度が高くなると肛門周囲腺癌となります。
しこりが大きくなると排便が困難になることがあります。
手術は可能ですが、しこりが大きい場合、肛門括約筋にダメージが出て、手術後排便に問題が起きることもあります。
精巣腫瘍
犬では隠睾がよくあります。停留睾丸ともいいます。
精巣は元々はおなかの中にあり、陰嚢の中まで移動してきます。
その途中で停まってしまい、精巣が陰嚢まで到達していない場合を停留睾丸、隠睾といいます。
陰嚢に到達していない精巣は癌化する可能性が高いのです。
できるだけ若い時期に摘出するべきです。
このように犬では明らかに性ホルモンと関連性のある病気があるので繁殖をしないのならば避妊手術・去勢手術をするべきでしょう。
猫の避妊・去勢と病気
一方、猫では犬ほど性ホルモン依存性の病気は問題になりません。しかし猫の乳腺腫瘍は非常に悪精度が高くほぼ乳癌と診断されます。繁殖をしないのならばできるだけ早く避妊手術をする方が良いでしょう。
猫では避妊手術・去勢手術は病気よりも飼育上の問題で必要性が高いと言えるかも知れません。発情期になると、雄は尿のスプレー(マーキング)、雌では泣き叫ぶので飼主さんは大変です。発情期に家出して遠くに行ってしまい帰れなくなるとか事故にあってしまうこともあります。
避妊・去勢手術のタイミング
ここまで見てくると避妊手術・去勢手術のタイミングとしては最初の発情が来る前がベストのようですね。個体差や季節・環境にもよりますが5〜6ヶ月から8ヶ月齢くらいでしょうか。
乳歯遺残・外科的矯正
ちょうどこの時期、犬でトイブリード(超小型犬種)、小型犬種では歯の生え替わりに問題が起こっていることが少なくありません。
3〜4ヶ月齢から歯の生え替わりが始まり5〜6ヶ月齢で犬歯が生え替わるのですが乳歯(特に犬歯)が残ってしまう乳歯遺残が良く起こります。
咬合不整でうまく噛めなくなったり、将来重大な歯周病になる可能性があります。
当院では避妊手術・去勢手術と乳歯遺残処置を同時に行うこともあります。矯正が必要な場合などは時間がかかることがあるので、タイミングをずらすなど個々の症例に合わせて対応しています。
避妊手術・去勢手術の方法について
当院では避妊手術・去勢手術といえども妥協しません。大きな手術と全く変わらない体制で臨みます。
また、出血が少なく、術後の痛みの少ない炭酸ガスレーザーメスや大血管も一瞬にしてシールできるベッスルシーラーなどの手術器具を使用します。
避妊手術・去勢手術では卵巣動静脈・精巣動静脈を結紮止血切断するのですが、ここが唯一危険性のある問題が発生しやすい部分です。当院ではここにベッスルシーラーとしてVIO-300Dのバイクランプシステムを使っています。これは大血管でもクランプで挟んで通電すると完全に遮断できる優れものです。