病気と治療について

先進のレーザー治療

2015.12.22

パル動物病院には最先端のレーザー機器が3台あります。

炭酸ガスレーザーメス CVL-3020、半導体レーザーメス DVL-20、半導体レーザー治療器 CTS-S。この3台を使って、先進のレーザー治療をご提供させて頂いています。小さな病院なのに3台もの、しかも最先端の精鋭レーザー機器があるのは珍しいかも知れませんね。

レーザーの原理など学術的な内容は省いて、3台の特徴と、当院でどのような治療を行っているかご紹介して行きます。

 

はじめに

レーザーには生体に対して有害な(不可逆的な)作用と有益な作用があります。

有害な不可逆的な作用は、蒸散、炭化、凝固です。強いレーザーを照射すると、照射部の組織は高温になり瞬時に無くなってしまいます。焼ける間もなく消し飛んでしまうので蒸散といいます。レーザーが殺人光線とか破壊光線と言われるゆえんですね。レーザーのあたった部分を中心として、高熱で蒸散した組織に接した組織は炭化し、その外側は凝固します。熱の作用が弱くなって行くイメージです。ここまでは不可逆的な変化になりますが、凝固層のさらに外側の組織にはレーザーの有益な作用がもたらされます。Photo Bio Modulationといって疼痛緩和、治癒促進、炎症反応抑制、局所血流改善その他、生体にとって有益な様々な効果がもたらされます。

生体に有害な作用は、器械側で上手に制御することで、これを有益なものとして利用できます。蒸散をコントロールして線状に連続して行くと組織をシャープに切開することができます。これを応用したのがレーザーメスになります。炭化層は組織修復に有害なのでできるだけ炭化層を作らないような方法が開発されています。炎症などでただれている組織の表面を薄く凝固してやると痛みがなくなります。レーザーを使って切開や凝固を行うとその周辺組織にはレーザーの有益な作用が起こっていますので、術後の疼痛が少なく治癒が早くなるのです。有害作用が全くでないようにして、有益な作用Photo Bio Modulationだけを得られるようにした装置がレーザー治療器になります。

では個々のレーザー機器の説明に移りましょう。

 

レーザー治療器 CTS-S

CTS-S

半導体レーザー治療器です。

半導体レーザーは800nm付近の近赤外域の光を出しますが、この付近の波長の光は水やヘモグロビンに吸収されないので、体表から照射しても生体の深部まで到達するため治療に適しています。一般的にレーザー治療器は単波長の物がほとんどですが、CTS-Sは810nmと980nmの2波長を出力します。さらに、実はファイバーユニットを変えると半導体レーザーメスとしても利用可能な高出力(15W)を出せます。2波長と高出力により短時間で効果的な治療が可能になっています。

この装置は、動物種、大きさ、被毛の長さ、色、皮膚の色、治療目的、照射部位などを入力して行くと個々の症例に適切な治療プロトコルが選択されます。この治療プロトコルはアメリカのレーザー獣医学会の研究成果の蓄積により治療効果が認められている物です。ですから私たちも自信を持って治療に当たれます。治療の途中でレーザーの出力モードを連続波からパルス波(10000Hz、1000Hz、100Hz、10Hzなど)に変えて行くと言う念の入ったプロトコルで、さらに効果的な治療が可能になっています。

この装置を導入した日のこと。

私が、「さあ今日からバリバリ使うよ!」と言うと、

早速スタッフから質問。「先生。どんな症例に使えるんですか?」

それに対して私の即答、「眼以外のすべて!!」

PB230041

それくらいこの装置の適用範囲は広いのです。治療プロトコル選択画面に出てくる大きな項目だけでも犬猫それぞれ19項目あります。

このCTS-S、パル動物病院でも様々な治療に使っていて、導入以来使わない日は無いほどです。

圧倒的に使用頻度が高いのは椎間板ヘルニア、変形性脊椎症、頸椎症などの脊髄神経系疾患や、膝蓋骨脱臼、股関節形成不全、変形性関節症、捻挫などの関節疾患など整形外科疾患の疼痛緩和、治癒促進です。痛みが強いため診察台の上で緊張している動物も照射を始めると数秒でリラックスし始めます。

実際にここのところ椎間板ヘルニア、膝蓋骨脱臼の手術は全くなくなりました。

「手術が必要になる可能性もありますよ。」と飼主さんに説明をして治療を開始しても、レーザー照射だけで落ち着いてしまうケースがほとんどです。

手術を回避できるのですから、動物に優しい(お財布に優しい?)治療と言えると思います。

外科手術後は手術創に積極的に照射して術後の疼痛緩和、手術創の治癒促進を促しています。

当院は歯科を得意にしていますので非常に状態の悪い歯周病の処置をよく行います。全顎抜歯またはそれに近い症例が多いのですが、処置後レーザー照射を行うことで治療成績が大幅に改善しました。

強力なレーザーを使うために室内にいる施術者、保定者、飼主さんは防御メガネを装着します。照射部位によっては動物にも防御メガネをします。不思議なことに動物はこのメガネを嫌がりません。

 

  

 

  

 

基本的な治療スケジュールは、初日から3日間連続、その後1日おきを1〜2週間、その後週2回、週1回と症状に合わせて減らして行きます。慢性的な関節疾患などでは週1回でも調子が良い症例が結構あります。また椎間板ヘルニアの持病があるのでトリミング後は必ずレーザー照射をしている子もいますよ。

炭酸ガスレーザーメス CVL-3020

CVL-3020

現在私たちが日本で入手できる炭酸ガスレーザーメスの中で最高のもののひとつです。

炭酸ガスレーザーは10,600nmの波長で、この波長の光は水に良く吸収され熱を発生します。生体は70%以上が水分で構成されていますので、10,600nmのレーザー光を生体に照射すると照射部位の温度は瞬時に1,000℃以上になり蒸散されます。これをうまく制御して組織を切開するレーザーメスとして使用するのです。

CVL-3020には1発のパルス幅0.0008秒のスーパーパルスモードが搭載されていて、炭化層の形成がほとんどなく周辺組織への熱損傷が大変少ないシャープな切開が可能です。鋼製メスで切開するのと同じくらいの早さで切開することが可能なので、周辺組織への熱損傷の影響はさらに少なくなります。

このレーザーメスは切開部位の微小な血管、リンパ管、神経をシール遮断しながら切開するため、手術中の出血が少なく、手術後の腫れや疼痛が少ない手術が可能です。そして傷もきれいに治ります。手術中の出血がほとんどないので「ノーガーゼオペレーション」などと言われることがあります。出血が少ないので動物の回復も早く、トータルでの手術のリスクも少なくなります。

動物に優しい手術を実施する上で炭酸ガスレーザーメスは欠かせない存在です。

 

半導体レーザー DVL-20

DVL-20

最大出力20W、808±10nmの波長のレーザー光を発生する半導体レーザーメスです。

レーザーメスと紹介しましたが、様々なアクセサリーを使って多用途性のある素晴らしいレーザー装置です。DVL-20だけで手術も治療も行っている動物病院も多いのではないでしょうか。

パル動物病院では治療はCTS-S、手術はCVL-3020で行っていて、DVL-20はそれ以外の用途、歯周病の治療、腫瘍への治療、椎間板ヘルニアへの治療などに使用しています。

 

●椎間板ヘルニアの治療への応用

特殊なファイバー、PLDDファイバーを使って椎間板ヘルニアの髄核の蒸散による減圧術(PLDD)が可能です。椎弓切除術など負担の大きい手術をしなくて済みます。

 

●腫瘍の治療への応用

腫瘍細胞は熱に弱いこと、半導体レーザーは組織に対する深達性に優れることを利用しています。

koukakusan1-150x150表層性の腫瘍に対しては広拡散プローブによるレーザーサーミアが可能です。このプローブを使ってレーザーを照射すると中心部から3mm程の組織が凝固し、9mm程の組織の温度をあげることができます。腫瘍細胞は正常細胞よりも熱に弱いので、正常組織を温存しつつ腫瘍組織を破壊することができます。局所麻酔下で実施することも可能なので諸々の事情で全身麻酔がかけられない動物にも対応できます。

rotary01腹腔内など深在性腫瘍に対してはロータリーハンドピースを使用したレーザーハイパーサーミア、マイルドレーザーハイパーサーミアが行えます。これも無麻酔で実施できます。ロータリーハンドピースは半導体レーザーのファイバーを高速で回転運動させる装置で、皮温を上げずにレーザーを照射することが可能になり高出力のレーザーを使えるので深達性がさらにあがります。

PB230007深在性腫瘍でも主要組織の温度を上げることができ腫瘍の増殖を抑制できるので、患者さんのQOLをあげることができます。

現在治験段階のICG-Lipoを併用した光免疫誘導治療はこの方法の発展形です(詳しくは「最先端の癌治療」参照)。

これらの治療はDVL-20がなければできない治療です。

 

●歯周病治療への応用

重度の歯周病の際に抜歯をせずに歯を温存する場合ルートプレーニングと言う処置をします。つまり歯周病で深くなってしまった歯周ポケットを徹底的にクリーニングし汚れや痛んだ組織を除去します。その仕上げとして歯周ポケットの中に弱い出力のパルス波でレーザーを照射します。これによって局所の殺菌を兼ねて治癒を促します。DVL-20にしかできないわざですね。